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第50話:2025年

「とうとう、Full Fledged Districtに昇格したな。」 District120初代ガバナーとなった北斗は、北海道札幌で行われたToastmasters International Conventionのステージの上で世界中のDistrict Governor達からD120の誕生を讃えられながら、万感の思いでスポットライトを浴びていた。

時は2025年。北海道にある65のトーストマスターズクラブが結集したDistrict120が誕生した。日本に初めてのFull Fledged Districtが誕生したのが2004年。それから21年の月日が流れ、現在日本には、北海道、東北、北陸、北関東、南関東、東海、中部、近畿、中国、四国、九州の11地域それぞれにDistrictがおかれている。しかも近畿と九州にはすでにProvisionalなDistrictがそれぞれ一つづつあり、これまでの成長率を考えると来年には新たに2つのDistrictが誕生しそうな勢いだ。

11のDistrictに所属する800を超えるクラブもバラエティに富んでいる。伝統的に英語のクラブが多いことはさておき、日本語のクラブも全体の30%を数え、さらに中国語、韓国語、ロシア語のクラブ、あるいは日英、日中、日韓、英中、中ロといった組み合わせのバイリンガルクラブも誕生している。

満場の祝福を浴びながら、北斗は昨日、International Presidentと一緒に、東京の首相官邸を表敬訪問をした際に話題になった「日本でのトーストマスターズの拡大の歴史」に再び思いを馳せていた。

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日本のトーストマスターズクラブの成長は、1995年以降急速に始まった。2001年にJapan Toastmasters CouncilがDistrict76Pに昇格し、それが2004年に正式にDistrict76となった。2005年には、District76 Speech Contestの優勝者をはじめて国際スピーチコンテストに送り込んだ。その間もクラブ数増加の勢いは止まらない。2004年、2005年とそれまでにないスピードでクラブが増加した。マスコミへの登場回数も増え、関東圏以外にもクラブ発足の加速的な動きが始まった。

2006年には、まず中部、近畿、四国、中国、九州をカバーするDivision CとDのガバナーが有力なメンバーを集め「2010年委員会」を結成した。これは2010年に、Division CとDのクラブを結集してDistrictに昇格を目指す動きだ。もともと、西日本は18歳以上の人口に対してクラブの数が少なすぎた。彼らの名誉のために申し添えておくと、ただ手をこまねいていたわけではない。機が熟していなかっただけのことなのだ。2010年委員会は、好機到来とばかり、この巨大なマーケットを攻略するために侃々諤々の議論を重ね戦略を練り上げていった。

2006年のFall Conferenceの席上で、2010年委員会は「2010年までにクラブ数をDivision CとDの合計で80を目指しDistrictに昇格する。さらにその中から現在のDivision CとDに相当するグループが2015年にはそれぞれDistrictに昇格することを目指す」とビジョンを発表した。この委員長が発表している最中、会場は物音一つ、咳払い一つなかったが、発表を終えた瞬間、万雷の拍手が沸き起こった。会場にいたDistrict76のOfficer, Club President, VPEがいっせいにそのすばらしい構想を賞賛したのだ。

西日本のこの動きに呼応して、Division Bのガバナーが行動を起こした。Division Bは東京西部、神奈川をカバーするDivisionだ。クラブ数も多い。熱心で、アグレッシブでさらにマニアックなメンバーが多数いるこのDivisionが、Division CとDの行動に無関心なわけがない。Fall Conferenceが終了と直ちにその夕方、Division Bガバナーは有志に声をかけ、会場そばの居酒屋で、「Vision 2009」という委員会を結成し、翌日から盛んにPRを行ってメンバーを集め始めた。オンライン、オフラインなど考えられるメディアと手段を使ってトーストマスターズを紹介して回った。マスコミにコネがある会員はそのコネをフルに利用し、ロータリークラブ、ライオンズクラブにコネがあるメンバーは例会に参加してデモミーティングを行った。 また地元のケーブルテレビ局、FM局に出演したり、また自分のポッドキャストを開局しゲリラ的に普及に勤めるメンバーも現れた。有志が高校を回ってYouth Leadership Programを無料で行い、また大学や公民館でもSpeech Craft Programを無料で行うAreaやクラブも目立ち始めた。こうした動きはさらにDivision Aをも巻き込み、District76の4つのDivisionすべてがDistrictへの昇格を目指してこれまでにない強い潮の流れを作り始めた。

2007年、2008年、2009年と歴代のDivisionガバナーは自分たちのDivisionをDistrictに昇格させるというアイデアに大きなロマンを感じ、またAreaガバナー達も毎週のように地図をにらみながら、マーケティングプランを練り上げ実現していった。

振り返ってみると、臨界点は2008年だったようだ。この年からそれまでの努力以上の成果が出始めた。自家用車、ウォークマン、インターネット、携帯電話など総人口に対する普及率が15%から20%という臨界点を突破した時点から爆発的に拡ったように、トーストマスターズのクラブの拡大にも同じことが言えた。毎週のようにどこかでかならずチャーターセレモニーが行われ、セレモニーに出席するDistrict Governor、Lt. Governor MarketingをはじめとするDistrict Officerもさすがに音を上げ始め、個別ではなくホテルを借り切って合同チャーターセレモニーが開かれることが普通になった。

多くの有能な人材がトーストマスターズに参加をはじめ、世間でのトーストマスターズへの認知度も飛躍的に高まっていく。良い人が集まれば活動のレベルがあがり、さらに多くの人を呼ぶ。「昔は、トーストマスターズっていうとパン焼きクラブと間違われた。」という昔話がJoke Sessionで取り上げられるほどになり、昔を知るメンバーは「時代も変わったものだ」と目を細める。Toastmasters InternationalのInternational ConventionでもLt. Governor Marketingはクラブ数の伸びを評価されて、毎回Marketing Excellence Awardを受賞した。

そして2009年11月。Division A, Division B, Division C, Division Dのすべてが一斉にDistrictへの昇格申請を行い国際本部もその申請を直ちに承認し、2010年4月にはDistrict76が4つのDistrictに分割された。District76(旧Division A)、District95(旧Division B)、District96(旧Division C)、District97(旧Division D)が誕生し、この年のSpring Conferenceは、仙台、横浜、神戸、福岡の4箇所で行われた。2010年委員会のメンバーは「2015年にDivision CとDがDistrictを申請する」という目標を5年も前倒しして実現したことに大いに満足して委員会を解散した。

社会的な認知度が高まったトーストマスターズが、その後の社会で果たした役割は目覚しい。2014年に関東、東海地方を襲った巨大地震で多くの人命が失われたが、復興後の心のケアでトーストマスターズが目立たないが大きな役割を果たした。震災で傷ついた人々が自分の体験を語り共感し共有する場を提供し、人々はそこでゆっくりと心の傷を癒していって立ち直っていった。科学技術がどんなに進んでも、やはり人は人と話をしたいのだ。話を聞きたいのだ。そして話を聞いてもらいたいのだ。地震で多くのトーストマスターズクラブも失われたが、復興の過程で小さなトーストマスターズクラブがいくつも誕生し、癒し癒される場として重要な役割を果たした。

その後の10年で、日本は傷つきながらも復興した。アジアのそして世界の多くのトーストマスターズに助けられて。そして、気がつくともっと多くのトーストマスターズクラブが誕生していた。

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「Ladies and gentlemen, please join me in welcoming DTM Hokuto, the first District Governor of the District120.」との声に我に返った北斗は、演壇に向かいながら、今後のトーストマスターズはどうなるのだろう、どこへ向かうのだろうと考えた。

演台に立ち目の前にいる聴衆を前に北斗は確信した。

「トーストマスターズは、1924年に誕生したときの理念を忘れずに時代に左右されることなく時代に遅れることなく確固たるスタイル、しっかりした足取りで未来に向かうだけだ。」と。


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